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「Javaアプリケーション作成講座」再構成にあたって

「Javaアプリケーション作成講座」 Web 公開版で書き下ろした著者コメントと、同時に描き下ろしたイラストです。

本書誕生の経緯

図1 マーチちゃん
図1 マーチちゃん

本書「Javaアプリケーション作成講座」の Web 公開を記念して、解説キャラクターとして「マーチちゃん」を描き下ろしてみたりしました。実に10年ぶりくらいであります。この本にはいろいろな思い入れや心残りがあり、Web での公開にあたって一言添えたいと思っていました。また、本書が手に入り難くなっているため、お求めの方には大変なご迷惑をおかけしました。

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本書は、元々先発の「読本Java」の後編として企画されたものであり、内容的には完全に普通の技術書を想定していました。ところが、これを書いていた当時、同じ出版社から発売されていた「萌えるシリーズ 萌え萌えうにっくす! UNIXネットワーク管理ガイド」が話題になり売れてしまったため、途中でキャラクターを使おうという話が編集からきて「おれは『読本Java』の Swing 編を書いていたと思ったら、いつのまにか萌え系技術解説書になっていた」という顛末でございます。

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たぶん、当時から僕が隙あらばソースコードにネタを仕込むとか、趣味で下手なイラスト描いてたので、この路線に切り替えられたのだと思いますが、新規にキャラクターを起こすこともなく、僕が当時サイトの看板娘として使っていたマーチちゃんをそのまま使うことになりました。加えて当時は北海道に住んでいたため、東京の編集部と打ち合わせすることもできず、なるようになってしまった感じがあります。

そのまま爆死すれば単なる黒歴史になったのですが、Swing を体系的にカッチリ解説している書籍が少ないこともあって、内容に好評いただき本は完売しました。マーチちゃん完売です。そして、普通なら増刷するのですが、出版社側が闇に葬りたかったのか増刷されることなく絶版となり、一時 Amazon の中古価格で高騰するという、著者的には一銭の得にもならない状態になりました。

もしまた、このような機会があれば、キャラクターデザインからしっかり企画して、可愛い魔法少女がエグい凶器構えてテクノロジーを解説する脳天直撃系の技術書を作りたいと考え幾星霜でございます。

そして伝説へ・・・?

これを書いていた当時は、Microsoft の Windows プラットフォームが強すぎて、Microsoft が投資しない技術分野が発展しない問題が顕著だったため、その対抗馬としての Java には大変期待していました。特に、プラットフォームの壁を越える「Write once, run anywhere」は魅力的なフレーズでした。

あれから 10 年、Java はどこでも動いているでしょうか?残念ながら、マルチデバイスの時代にこそ威力の発揮する「Write once, run anywhere」の思想は実現されませんでした。ポスト PC と呼ばれる新しい世代のシステムの多くが Java 仮想マシンを実装しておらず、唯一実装している Android においても、Java 言語が使えるというだけで、全く別のプラットフォームです。当時は、まさか Java がこのような現状になるとは思ってもいませんでした。

Java は、Java アプリケーションがどこでも動くことを保証するため、Java 互換環境(独自のサブセットや、独自の Java ベースの実装)の存在を許さず、結果として進化速度が速いコンシューマ向け製品分野で遅れ、ユーザー体験などシステム固有の機能と強く結びつける必要のある部分で質が低くなりました。現在では UI やユーザー体験が重要なコンシューマ向け製品での利用は限定的となり、盛んに使われているのは基幹系システムが中心となっています。

Java に期待した一人の開発者としては、Java の現状は非常に残念でなりません。Java を開発した Sun Microsystems が基幹系システムに密接なデータベース企業である Oracle に買収されてしまったため、今後もコンシューマ向け製品で Java が復権する可能性は低いと言わざるを得ません。

ですが、Java で書かれた Swing アプリケーションは Windows、Mac OS、Linux などの PC では共通して動作するので、社内ツールの開発などで応用できる場面もあるでしょう。Java や Swing の知識や考え方は現在でも通用するので、無駄になるものではありません。