Imagine Cup 2012 世界大会
あらすじ!
Imagine Cup は、学生が世界の諸問題を技術で解決するためのソリューションを持ち寄って競い合う Microsoft 主催のワールドワイドなイベントです。赤坂玲音が講師を務める専門学校「バンタンゲームアカデミー」のチーム Esperanza (エスペランサ)は、ゲーム部門で世界を目指して Imagine Cup 2012 に挑戦してきました。
前回のイベントレポートでご報告したように、Imagine Cup 日本大会で国内上位 3 チームに選ばれ決勝に挑みましたが、残念ながらトライデントコンピュータ専門学校のチームブロッサムに敗れ、結果は 2 位で終わりました。しかし、Imagine Cup のゲーム部門は日本大会と世界大会の審査が別に行われており、その後もオンライン審査で世界大会への最終選考である Round3 まで進みました。
そして、見事に日本大会優勝チームのブロッサムと、我々 Esperanza の 2 チームが世界大会に進出を決めました。世界大会に進出できるのは上位 10 チームのみで、世界中から数百チームが参加する中、厳しい審査を乗り越えて世界大会まで残ることができました。このうち 2 チームが日本から選出されたというのは、とても素晴らしいことです。何かと最近の学生は元気がないと言われる日本ですが、技術で世界に勝負できる強さを持っているのです。
会場はシドニー市内のダーリングハーバーという港で、非常にきれいな街並みでした。オペラハウスからもそう遠くない場所で、現地の人たちにとっても観光場所として有名なようでした。雰囲気的には横浜・みなとみらいが近い感じです。周辺には Imagine Cup の旗が掲げられており、街全体が歓迎ムードです。
ホテルからほど近い大型の会議センターが会場となっており、初日は参加者登録とオープニングセレモニーがありました。
オープニングセレモニーでは、世界中から厳しい審査を通り抜けてきた優秀な学生たちを歓迎し、称えました。Microsoft のビル・ゲイツ氏や Facebook のマーク・ザッカーバーグ氏なども学生時代に起業し、世界に大きな影響を与えるソフトウェアやサービスを作ってきたことを引き合いに、学生には「世界を変える力がある」と、会場にいる学生たちに改めてメッセージを送りました。
オーストラリアのジュリア・ギラード首相のビデオメッセージが流されました。一国の首相からメッセージをいただけるくらい、世界大会は大きく影響力のあるイベントなのです。
また、ゲストに 16 歳の若さでヨットの単独世界一周に成功したオーストラリアのジェシカ・ワトソン氏が登壇しました。どんなプロジェクトにも困難は付きものですが、彼女は自らの過酷な体験と、それを乗り越えていく過程を語り、困難に挑戦することの素晴らしさを語りました。
長い飛行機の移動もあって疲労感も残る初日ですが、それを忘れさせてくれる素晴らしいセレモニーでした。ちなみに、この時スポンサー企業の Nokia からファイナリストの学生全員に Windows Phone 7 端末の Lumia 800 が無料提供されました。メンターの僕はもらえなかったので、うらやましいです。
最後に、初日を終えてのコメントです。
翌日から、いよいよ競技本番が始まります。・・・が、私たちにはまだやることがありました。
審査本番
我々 Esperanza は致命的な欠陥を抱えていました。Imagine Cup は作品提出時点で学校に在籍していれば良いという応募要件なので、日本大会の時も含めて、提出後はメンバー全員が学校を卒業して社会人になっていました。覚えなければならないことが沢山ある新卒1年目の社会人が、そうそう余裕なんて作れるはずがありません。
プレゼンテーションの資料完成していない・・・
実は世界大会の進出が決定してから現地集合まで、メンバー全員が集まれたのは土曜日のみ3回程度しかありませんでした。この厳しい制約下で、どのように世界大会本番に挑むかは大きな課題でした。
資料が完成していないのですから、全体で通しのプレゼンテーション練習なんて出来ていません。しかも、本番はもちろん英語でプレゼンテーションします。ちなみに、プレゼンテーションに与えられている時間は 20 分で、その後に審査員からの質問があります。何とかしなければなりません。
というわけで、徹夜で資料作成するしかありません。ゲームなので動きのわかる動画を細かく埋め込まなければならず、ゲーム自体の実装も不十分な部分があり、とにかく 20 分のプレゼンテーションに耐えられる形にしなければなりません。
・・・何で学生指導している身でオーストラリアまで来てデスマーチみたいな経験しなきゃならないのか疑問に思いながら彼らの作業を見守ります。
結局、資料が完成したのが本番開始 1 時間前で、そこから全体を通したプレゼンテーション練習をホテルで行っていました。資料をめくるタイミングと全体の流れの把握がやっとで、立ち位置などの細かい打ち合わせはありません。本当に、何もかもがギリギリでした。
Esperanza の作品「BLUE FIELD」の目的は大きく 2 つありました。1 つは東日本大震災で私たちが体験した自然災害の脅威を世界に共有し、防災意識を高めてもらうと同時に、ゲームという双方向なメディアを通じて災害を記録に残すことです。もう 1 つは、あの震災の直後に世界中の国からいただいた支援に感謝を伝え、自然災害に備えた国際的パートナシップの強化を訴えることです。
BLUE FIELD のゲームシステムは、震災被害で瓦礫と化した街を復興に導くリアルタイムストラテジー(RTS)ゲームです。プレイヤーは撤去班や救護班を率いて瓦礫を片付け、時間内に目標を片付けていかなければならないというゲームになっています。マルチプレイがないとはいえ、RTS ゲームを基礎から実装するのは簡単なものではなく、これを短時間で開発したチームの技術力は確かなものです。
続いて、審査員が実際のゲームをプレイするハンズオン審査が行われました。先のプレゼンテーションと合わせて評価され、上位 5 チームが世界大会決勝に進めます。
各審査員が個別に回ってくるので、一人ずつ丁寧にゲームの内容を説明できます。プレゼンテーション審査に続いて、ハンズオン審査で実行するゲームのバイナリも本番までギリギリの調整が行われていました。ゲームの実装には自信があるのですが、細部の完成度とチュートリアルやステージのバランスで問題を抱えており、発見された問題は次の審査員が来るまでの間に、その場で修正するという作業をやっていました。
一通りの審査が終了し、あとは決勝進出チームの発表を待つだけとなりました。この数時間も無駄にはできないので、決勝に進出したときのことを考えて空き時間にゲームとプレゼンテーションの修正を行っていました。決勝に進むことができれば、もう一度、公開の場でプレゼンテーションを行う機会を得ることができます。
そこで、審査員から指摘のあった部分を変更し、「実は、先ほどいただいたフィードバックを、すでに反映しました」という演出を組み込むことと、資料の一部を削って、代わりに実際のゲーム画面を出して一部を実況プレイする形に変更しました。
当然、この時点では決勝に行けるかどうかは決まっていません。ですが、決まってから行動しては遅いので決勝に備えるよう作業と練習を行っていました。最後まで勝利を信じ、最善を尽くさなければなりません。
そして、いよいよゲーム部門の世界大会決勝進出を決める上位 5 チームの発表です。
まず最初に、同じ日本代表のチームブロッサムの名前が呼ばれました。日本大会に続いて、完成度の高いゲームと練度の高いプレゼンテーションが評価されたのだと思います。同じ日本人チームが決勝進出を決めたのは喜ばしいことで、我々もこれに続きたいところですが・・・。
残念ながら、上位 5 チームに Esperanza の名前が呼ばれることはなく、私たちは一度もステージに上がれないまま敗退が決まりました。最終順位はゲーム部門 10 チーム中 10 位と振るわず、世界の壁の高さを痛感する結果に終わりました。非常に悔しい思いをしましたが、一夜漬けのプレゼンテーションでどうにかなるほど、世界大会は甘くはありません。ただ、チームメンバーは限られた時間の中で全力を尽くしてくれました。彼らを勝利に導けなかった、メンターの責任を痛感します。
ただ一点だけ、私たちの作品「BLUE FIELD」のポテンシャルは極めて高いもので、基本コンセプト、ゲーム実装、グラフィックス、サウンドのいずれも個々の要素は非常に質の高いものだったと自負しています。個々の素材を生かすための調整が十分に行えなかったことが、大きな反省点となりました。
悲劇はない 皆が勝者だ
すべての審査が終了した後、最終結果が出るまでの間は学生たちの交流やシドニー観光の機会が与えられました。世界中から優秀な学生が集まっている場なので、学生との交流の機会も重要な Imagene Cup の要素だと思います。皆が自分の技術力を信じ、自分が次のビル・ゲイツやマーク・ザッカバーグになれると信じている、そんな熱意ある若者たちばかりです。
そして、最終日には決勝まで進んだチームの結果発表が行われました。何と、ソフトウェアデザイン部門で東京工業高等専門学校のチーム Coccolo が 2 位に入賞するという快挙を達成しました。ソフトウェアデザイン部門は Imagine Cup の最も大きな部門であり、最も難関な部門です。この成績は、日本代表の過去最高成績となりました。
日本大会の頃から Coccolo の作品とプレゼンテーションを拝見していましたが、可視光通信を応用した照明システムという、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークが連携する高度な技術を持っていました。ハードウェアとソフトウェアの両輪がうまく回っているシステムというのは強いなと感じさせてくれます。
また、ゲーム部門で決勝に進出したチームブロッサムの結果は 5 位と、惜しくも入賞には至りませんでしたが、素晴らしい成績を残しました。
最後に、日本代表の全員で記念撮影した写真です。
世界の舞台で活躍する日本の学生たちと同じ空間を共有することができ、1人の日本人エンジニアとして誇らしい思いです。
ちなみに、閉会式で Microsoft から学生たちに Windows 8 リリース後に端末をプレゼントするというサプライズがありました。Intel アーキテクチャの Windows 8 なのか ARM アーキテクチャの Windows RT なのかといった詳細は不明ですが Windows RT だと開発できないので普通にタブレット機能のある PC かもしれません。Lumia 800 に続いて、うらやましい限りです。
もちろん「アプリを開発してストアに登録するように!」と釘を刺すことは忘れていませんでした。